第350号 2012・5・1

■■ はじめに ■■

みなさん、おはようございます。前回から415条の解説に入っています。

415条は、債務不履行の要件について規定した条文です。重要な条文ですので、何回かに分けて解説しています。

試験に合格するとか、仕事で成功するとか、何か事を為すために、大切なことは「継続力」だと思います。頭では分かっていても、ほんとに難しい。

今年はマイナー契約になってしまいましたが、野球選手のゴジラ松井も、子供の頃、壁に「努力できることが才能である」と書いた紙を貼っていたそうです。

継続することが難しいということがわかるエピソードです。

気合いとか根性などの単純な精神論だけでは、継続は難しいというのは、多くの人が経験上理解できると思います。

それでは、さっそくはじめましょう。

第415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

■■ 解説 ■■

前回も解説したように、債務不履行には、以下の3種類があります。

1、履行遅滞

2、履行不能

3、不完全履行

まず、履行遅滞を解説します。

履行遅滞は、履行が可能であるのに弁済期を徒過した場合に成立する債務不履行責任です。

例えば、甲さんが乙さんから建物を買う契約をした場合に、建物の引き渡し期日になっても、乙さんが建物を引き渡さないような場合です。

この場合、乙さんは履行遅滞責任を負うことになります。

415条前段の部分です。債務者である乙さんは、建物を約束の期日に引き渡すという「債務の本旨に従った履行を」していないわけです。

今の具体例は、分かりやすいように簡単に履行遅滞責任を発生させましたが、実は、履行遅滞に基づく損害賠償請求が発生するためには以下の6つの要件が必要です。

1、債務が履行期に履行可能なこと

2、履行期を徒過したこと

3、履行の遅延が債務者の帰責事由に基づくこと

4、履行しないことが違法であること

5、損害の発生

6、因果関係

この履行遅滞に基づく損害賠償請求権の6つの要件は、とても大事ですので覚えてしまって下さい。

それでは、要件を1つずつ解説していきます。

〜1、債務が履行期に履行可能なこと〜

さきほどの具体例では、乙さんは約束の期日に建物を引き渡すことが可能だったのですから、この要件を充たします。

仮に、甲乙間の建物売買契約後に建物が何らかの理由で焼失すれば、もはや甲さんは建物を引き渡すことが不可能ですので、1の要件を欠き履行遅滞責任は発生しません。

この場合には、債務者の帰責事由に応じて、危険負担か次回解説する履行不能になります。

危険負担も履行不能もまだ解説していませんので、今は気にしないで下さい。

いずれにせよ、履行遅滞責任は発生しません。

〜2、履行期を徒過したこと〜

これは特に説明不要ですね。

約束の引き渡し期日が、まだ到来していない間は履行遅滞責任は発生しません。

履行期になっても、履行しないからこそ履行遅滞責任を負うわけです。

ちなみに、さきほどの具体例は確定期限のある債務です。

では、不確定期限債務の履行期はいつだったでしょう?

また、期限の定めのない債務の履行期はいつだったでしょう?

412条の解説でやりましたよね。

履行期についての条文です。

確定期限のある債務については、その時。

不確定期限については、債務者が期限到来を知った時。

期限の定めなき債務は、履行の請求を受けた時。

忘れたという方は、バックナンバーできちんと復習しておいて下さい。

債務の内容によって履行期は異なりますが、412条の定める履行期を徒過した場合に2の要件を充たします。

〜3、履行の遅延が債務者の帰責事由に基づくこと〜

この要件は、条文には書いてありません。

415後段は、履行不能に関する規定で、後段には、「債務者の責めに帰すべき事由によって」と書いてあり、債務者の帰責事由を明文で要求しています。

それとのバランスから前段の履行遅滞についても、債務者の過失が必要だと考えられています。

例えば、引き渡しの当日に大災害などが起きて、どうしても引き渡すことができないというような場合。

このような場合は、債務者に帰責性は認められないでしょうから、たとえ履行期を過ぎても3の要件を欠き履行遅滞責任は発生しません。

〜4、履行しないことが違法であること〜

この要件は、留置権や、まだ解説していない同時履行の抗弁権が絡んでくるので、今は難しいと思います。

さきほどの具体例で、甲さんが引き渡しの期日に、代金を支払っていなかったとします。

このような場合、乙さんに代金請求権を被担保債権とする留置権や同時履行の抗弁権(533条)が発生します。

留置権や同時履行の抗弁権がある場合、建物を引き渡さなかったとしても、正当な権利に基づく引き渡し拒否ですので、違法性がありません。

このような場合には、4の要件を欠き履行遅滞責任は発生しません。

常識的に考えても分かります。相手が代金を払わないから、払ってくれるまで建物を引き渡しを拒んだ。

すると、履行遅滞で損害賠償請求されるなんて事になればたまったものではありませんよね。

〜5、損害の発生〜

これも当然要求される要件です。

仮に、引き渡しが遅れたとしても、何ら損害が発生していなかったとすれば、当然、損害賠償請求権は発生しません。

予定していた引き渡し期日からそこに住むことができると思っていたので、その日までしかマンションの賃貸借契約をしていなかったとします。

履行期に引き渡しを受けることができなかったので、仕方なく、引き渡してもらえるまでの数日間、ホテルに泊まっていたというような場合には、そのホテルの代金が損害になります。

ちなみに、このような損害を遅延賠償と言います。

〜6、因果関係〜

さきほどの具体例で、甲さんは、乙さんから建物の引き渡しを受けることができなかったので、建物に住むことができませんでした。

そのショックで、息子が寝込んでしまって、大事な大学受験に失敗しました。

そのショックで甲さんは頭がボーッとしていて、歩きながら壁にぶつかって頭をケガしてしまいました。

そのケガした治療代などが損害になるのですが、この損害と乙さんが建物を引き渡さなかったという事の間に因果関係は認められません。

因果関係が認められないことにまで、損害賠償請求を認めると、賠償しなければならない範囲が無限に広がってしまいます。

履行遅滞との因果関係が認められる損害のみ責任を負うということです。

■■ 豆知識 ■■

要件3の債務者の帰責事由に関連して、1つ覚えておいて欲しい重要な知識があります。

709条からの不法行為をまだ解説していないので、分かりにくいかもしれませんが、債務者の帰責事由についての巨匠責任は、債務者が負います。

さきほどの具体例でいえば、履行遅滞になっている建物引き渡し債務の債務者である乙さんが、自分には帰責事由がないということを証明する必要があります。

不法行為責任に基づく損害賠償請求の場合は、これが逆になります。

理解するまでは、どっちがどっちか分かりにくいので、試験によく出題されます。

挙証責任は、民事訴訟法も絡んできますので、何のことか分からなくても今は気にしないで下さい。

■■ 編集後記 ■■

今日は、415条前段に規定されている履行遅滞の解説をしました。

次回は、後段の履行不能の解説をします。

履行遅滞の6つの要件は確実に覚えてしまって下さいね。

覚えてしまえば、知らない問題が出た時にも、要件を1つずつ検討していけば、必ず正解にたどり着けるはずです。

債務不履行に基づく損害賠償請求に関する問題は確実に点を取ることができるでしょう。

反対に、この要件を覚えていないと、未知の問題が出たら対処することができません。

ジ・エンドです。

415条は覚えることがいっぱいで大変ですが、もう少し頑張りましょう。

発行:株式会社シグマデザイン
http://www.sigmadesign.co.jp/ja/

日本で実施されている資格を調べるには資格キングをご利用下さい。

なお、配信解除希望とのメールをいただくことがあるのですが当方では応じることができません。解除フォームよりご自身で解除していただきますようお願いいたします。

(裏編集後記)

受験生におすすめの在宅アルバイト。簡単な文章を入力するだけでお小遣い稼ぎができます。文章を書く訓練にもなって一石二鳥のお仕事です。

最近、はまっている曲。

チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」

佐渡さんと辻井伸行さんのコラボが素晴らしい。

このサイトは、まぐまぐより発行している無料メルマガのバックナンバーです。最新号を早く読みたい場合は、無料メルマガの登録をお願いします。登録はこちらから。

【YouTube】独学応援!行政書士塾

YouTubeで行政書士試験対策講座を配信しています!ぜひチャンネル登録を!

管理人の著書

【行政書士試験の最短デジタル合格勉強法。iPadを活用した新時代の勉強法】Amazonで絶賛販売中!

メールマガジン登録

このサイトは、まぐまぐより発行している無料メルマガのバックナンバーです。最新号を早く読みたい場合は、無料メルマガの登録をお願いします。登録はこちらから。

民法のおすすめの本

↓民法基本書の定番である内田民法!民法を勉強するなら必ず持っておきたい基本書の一つです。

民法1 第4版

↓司法試験受験生の間で圧倒的な支持を得ている伊藤塾のテキストです。司法試験、司法書士、行政書士の受験対策や大学の学部試験対策に最高のテキスト。

伊藤真試験対策講座1 民法総則

↓民法の偉大な学者である我妻先生が民法の条文を一つずつ徹底的に解説されています。条文の趣旨や要件・効果などを調べたい時に辞書のように使うと便利な本です。

我妻・有泉コンメンタール民法—総則・物権・債権