第371号 2016・7・26

■■ はじめに ■■

みなさん。こんにちは。

前回で詐害行為取消権の解説が終わりました。

今回からは多数当事者の債権及び債務という部分に入っていきます。

多数当事者の債権債務はそれほど難しい内容は無いのですが、細かい知識などを試験で聞かれることが時々あるので、重要な部分だけは記憶してしまう必要があります。

かなり久しぶりの発行になってしまったので忘れてしまった人もいるかと思いますが、問題を1つ出題していたので簡単にその解説をします。

念のためにもう一度問題を掲載します。2014年度の行政書士試験で出題された問題です。

【問題】
Aは複数の債権者から債務を負っていたところ、債権者の一人で懇意にしているBと相談の上、Bに優先的な満足を得させる意図で、A所有の唯一の財産である甲土地を、代物弁済としてBに譲渡した。その後、Bは同土地を、上記事情を知らないCに時価で売却し、順次、移転登記がなされた。この場合において、Aの他の債権者Xは、自己の債権を保全するために、どのような権利に基づき、誰を相手として、どのような対応をとればよいか。判例の立場を踏まえて40字程度で記述しなさい。

詐害行為取消権の問題だというのはすぐに気づくと思います。

債権者X、債務者A、受益者B、転得者Cという事案です。

一応詐害行為取消権の要件に一つずつ当てはめていきましょう。

XのAに対する被保全債権が存在し、XはそれをAB間の詐害行為前に取得しています。

Aは唯一の財産である甲土地をBに譲渡していますので、無資力になっています。

次に、まだ解説していなかったかもしれませんが、代物弁済は原則として詐害行為に当たります。

なぜなら代物弁済(482条)は本来の債務の弁済ではなく代わりのもので弁済する契約なので債権者を害する蓋然性が高いからです。

代物弁済についてはまだ説明していませんが、100万円の代金債務を本来の弁済である100万円の現金の代わりに100万円相当の車で弁済するようなものと思っていただければ大丈夫です。

詳しくは482条の時に解説します。

また、AはBと相談の上でBに優先的な満足を得させる意図で甲土地を譲渡していますので、当然受益者であるBは債権者を害することを知っています。

したがって、詐害行為取消権が認められ、問題文の「どのような権利に基づき」という部分の答えは詐害行為取消権に基づきという事になります。

問題は、誰を相手としてどのような対応を取ればよいかです。

これはかなり難しいですし、おそらく行政書士試験の本番ではこの部分が間違っていても合否には影響しなかったと思います。

判例の立場を踏まえてと書いてあるのがヒントになっているのですが、以前に解説した詐害行為取消権の法的性質と関係します。

判例は詐害行為取消権の法的性質で折衷説を採用しており、折衷説からは債務者は被告にならないと考えられています。

折衷説は詐害行為取消権を詐害行為を取り消し、かつ、逸出した財産の返還を請求する権利であると考えるのですが、取り消しの効果を債権者とそれらの者に対する関係においてのみ無効とする相対的無効とします。

今回の問題の場合は、詐害行為であるAB間の代物弁済契約を取消すのですが、その効果はXB間においてのみ生じ、Aとの関係では取消の効果は生じないと考えるのです。

本来AB間の行為を取消すのであれば、AとBの両方を被告にしなければならないはずなのですが、折衷説は取消の効果を相対効と考えるので、Aを被告とする必要がないとするのです。

土地はすでにBから善意のCに売却されていますので、土地を戻すように請求することはできませんので、Bに対して売却代金を返還するように請求することになります。

したがって、答えは「詐害行為取消権に基づき、裁判上Bを相手としAB間の契約を取消し価格賠償を請求する。」となります。

何を言っているのか意味が分からないという人もいると思いますが、形成権説と比較すると少し分かりやすくなります。

形成権説は、詐害行為取消権を文言通り取消しと解し、その効力を絶対的無効とします。

したがって、被告は債務者と受益者双方ということになりますので、形成権説の立場からすると答えはAとBを相手とするということになります。

このように詐害行為取消権の法的性質についてどの立場を取るかで被告としなければならない相手が変わってくるので、問題文にわざわざ判例の立場を踏まえてと書いてあるのです。

難しい話ですが、もう一度366号(民法424条 詐害行為取消権の解説 Part1)を読んで見て下さい。

この問題と解説を読んでから改めて読んでみると理解が深まると思います。

これは行政書士試験の過去問ですが、この問題は詐害行為取消権というキーワードさえ書けていれば十分に合格点を取れていたと思います。

だから決して詐害行為取消権の法的性質に関する学説の対立まで勉強しないと合格できないなどと思わないで下さい。

こういうところも勉強しないといけないと思ってしまうとやらなければならないところがどんどん広がっていって、本当に大事な部分が手薄になってしまいます。

試験に短期間で合格する秘訣は限られた時間の中で、やらなければならない事と、やらなくてもいいことをきっちりと見分ける事です。

そして、合格するために絶対に必要な部分だけを繰り返し繰り返し勉強する事です。

少し長くなりましたが、今日の条文の解説を少しだけします。

▼▼▼ 第427条(分割債権及び分割債務) ▼▼▼

数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

■■ 解説 ■■

427条から債権総則の中の多数当事者の債権債務という節に入ります。

さらに第3節多数当事者の債権債務の中には以下の内容があります。

第1款 総則
第2款 不可分債権及び不可分債務
第3款 連帯債務
第4款 保証債務

まず、今日の427条は第1款総則の中にある唯一の条文であり、多数当事者の債権債務に関する原則論となっています。

多数当事者の債権債務というのは、簡単に言うと債権者や債務者が複数いる場合の法律関係の事です。

債権者や債務者が数人いる場合に、特に別段の意思表示がないような場合には、それぞれ等しい割合で権利を有し義務を負うという、いわば当たり前の事を規定している条文です。

例えば、仲のよい3人組である甲、乙、丙が共有で所有しているリゾートマンションをAさんに3000万円で売却したとします。

この場合、甲、乙、丙はそれぞれ1000万円ずつの代金債権をAに対して有する事になります。

これが分割債権です。

反対に甲、乙、丙の3人が共同でAさんからリゾートマンションを3000万円で買ったとします。

この場合には、甲、乙、丙それぞれがAに対して1000万円ずつの代金債務を負う事になります。

これが分割債権と分割債務で、多数の当事者が出てきた場合の原則論となります。

■■ 豆知識 ■■

多数当事者の債権債務は主に担保として機能するものが多いです。

民法は債権の担保として人的担保と物的担保を規定していますが、この多数当事者の債権債務は人的担保に関する規定が多いです。

したがって、本来であれば物的担保である抵当権などとまとめて規定されているとわかりやすいのですが、日本の民法がパンデクテン方式を採用しているために、分けて規定しているという構成になっています。

このようにこの条文はなぜこの部分に規定されているのだろうと常に目次を意識しながら考える癖をつけると民法の体系を理解する事ができます。

■■ 編集後記 ■■

今回は条文が簡単だったので解説は短くて済みました。

その代わりに前回の行政書士の過去問の解説が長くなりました。

詐害行為取消権の法的性質についての学説の対立は理解してしまえば、それほど難しいことはないのですが、わからなければ今の段階ではそれほど気にしなくても大丈夫だと思います。

判例・通説の折衷説の考え方と、債務者は被告にならないということだけ覚えておけば十分だと思います。

それでは、次回もお楽しみに。

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また、行政書士事務所の運営などについてもいろいろ書いて行こうと思っています。

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