第365号 2013・5・20

■■ はじめに ■■

こんにちは。久しぶりの発行です。

今回は、民法の解説ではありません。もっと大事な事を書きました。

参議院選挙が近づいてきたので、1つのテーマになっている憲法改正について少し触れてみたいと思います。

自民党が盛んに憲法改正を訴えていますが、その中で特に96条の改正に力を入れています。

安倍総理や自民党が憲法改正が必要だと主張している主な理由は以下のようなものです。

  1. 第二次世界大戦以後だけを見ても多くの国が改正をしているにも関わらず、日本だけが一度も改正していないのはおかしい。
  2. 世界各国の憲法と比べて、日本の憲法改正手続きは厳しすぎるから今まで改正できなかった。

今回はこれらの理由には全く説得力がないという事を書きます。

まず、1の理由はどうでもいいです。別に他国が改正しているから自国も改正しなければならない理由なんてどこにもありませんから。そもそも論理が通っていません。

三段論法でいうところの大前提が無い状態です。

問題は2の理由です。

日本の憲法が戦後一度も改正されなかったのは、本当に他国と比べて改正手続きが厳格なのだからでしょうか?

私は全く違うと思います。その理由を説明します。

アメリカ合衆国憲法と比較してみると分かりやすいです。アメリカでは戦後6回改正がなされています。

合衆国憲法の修正第22条から修正第27条です。条文を紹介しますので、一度読んでみてください。

▼▼▼ 修正第22条(大統領の三選禁止) ▼▼▼

第1節
何人も、2回を超えて大統領の職に選出されてはならない。他の者が大統領として選出された場合、その任期内に2年以上にわたって大統領の職にあった者または大統領の職務を行った者は、何人であれ1回を超えて大統領の職に選任されてはならない。ただし、本条の規定は、本条が連邦議会によって発議された時に大統領の職にある者に対しては適用されない。また、本条の規定は、それが効力を生ずる時に任期中の大統領の職にある者またはその大統領の職務を行う者が、その任期の残余期間中大統領の職にあり、または大統領の職務を行うことを妨げるものではない。

第2節
本条は、連邦議会がこれを各州に提出した日から7年以内に、全州の4分の3の議会によって憲法の修正として承認されない場合は、その効力を生じない。

▼▼▼ 修正第23条(選挙権の拡大) ▼▼▼

第1節
合衆国政府の所在地を構成する地区は、連邦議会の定める方法により、もし同地区が州であると仮定すれば連邦議会に送ることのできる上院および下院の議員総数と等しい数の選挙人を選任する。ただし、その数は、いかなる場合にも、人口の最も少ない州の選任する選挙人の数を超えてはならない。同地区任命の選挙人は、各州任命の選挙人に加えられ、大統領および副大統領の選挙の目的のためには、各州選任の選挙人とみなされ、同地区に会合して、修正第十二条の規定する義務を履行するものとする。

第2節
連邦議会は、適当な法律の制定によって、本条を施行する権限を有する。

▼▼▼ 修正第24条(選挙権の拡大) ▼▼▼

第1節
大統領あるいは副大統領、大統領あるいは副大統領の選挙人、または連邦議会の上院議員あるいは下院議員のための、予備選挙その他の選挙に対する合衆国市民の投票権は、合衆国またはいかなる州も、人頭税その他の租税を支払わないことを理由として、これを拒否または制限してはならない。

第2節
連邦議会は、適当な法律の制定によって、本条を施行する権限を有する。

▼▼▼ 修正第25条(大統領職等の承継など) ▼▼▼

第1節
大統領の免職、死亡、辞職の場合には、副大統領が大統領となる。

第2節
副大統領職が欠員の時は、大統領は副大統領を指名し、指名された者は連邦議会両院の過半数の承認を経て、副大統領職に就任する。

第3節
大統領が、その職務上の権限と義務の遂行が不可能であるという文書による申し立てを、上院の臨時議長および下院議長に送付する時は、大統領がそれと反対の申し立てを文書により、それらの者に送付するまで、副大統領が大統領代理として大統領職の権限と義務を遂行する。

第4節
副大統領および行政各部の長官の過半数または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないという文書による申し立てを送付する時には、副大統領は直ちに大統領代理として、大統領職の権限と義務を遂行するものとする。

その後、大統領が上院の臨時議長および下院議長に対し、不能が存在しないという文書による申し立てを送付する時には、大統領はその職務上の権限と義務を再び遂行する。ただし副大統領および行政各部の長官の過半数、または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務の遂行ができないという文書による申し立てを4日以内に送付する時は、この限りでない。この場合、連邦議会は、開会中でない時には、48時間以内にその目的のために会議を招集し、問題を決
定する。もし、連邦議会が後者の文書による申し立てを受理してから21日以内に、または議会が開会中でない時は会議招集の要求があってから21日以内に、両議院の3分の2の投票により、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないと決定する場合は、副大統領が大統領代理としてその職務を継続する。その反対の場合には、大統領はその職務上の権限と義務を再び行うものとする。

▼▼▼ 修正第26条(選挙権の拡大) ▼▼▼

第1節
十八歳またはそれ以上の合衆国市民の投票権は、年齢を理由として、合衆国またはいかなる州もこれを拒否または制限してはならない。

第2節
連邦議会は、適当な法律の制定によって、本条を施行する権限を有する。

▼▼▼ 修正第27条(議員報酬制度の変更) ▼▼▼

上院議員および下院議員の役務に対する報酬を変更する法律は、下院議員の選挙が施行されるまで、その効力を生じない。

■■ 解説 ■■

修正第22条から修正第27条まで読んでみて何を感じたでしょうか?

アメリカでは戦後だけで6回も憲法改正がなされているのですが、その理由が条文を読めば分かると思います。

要するに一言で言えば、これらの修正条項は全て国民の権利をより保護する方向性の内容だからです。

1つずつ説明します。

まず、修正第22条は大統領の三選禁止規定です。

第32代大統領であるフランクリン・ルーズベルトの連続4選に反発して改正されました。

同じ大統領が長期間大統領という強大な権力を持つ地位にいると癒着などの様々な問題が出てきて国民の人権が危険にさらされる事は容易に想像できますよね。

次に、修正第23条、修正第24条、修正第26条は、全て国民の選挙権を拡大する内容です。

民主主義において最も大事な人権である選挙権をより国民に与える方向での改正です。

修正第25条は大統領が死亡したなど特別な事情が起きた時に、臨時に誰が大統領の仕事をするのかを定めています。

憲法は大きく分けて「人権」と「統治」に関する条文がありますが、これは「統治」に関する改正です。国民の人権とは関係ありません。

最後に修正第27条は、議員の報酬、つまり給料に関する規定です。議員の報酬は法律で定められており、それを変更する事で自分たちの給料を自分で上げる事ができます。

議員の報酬というのは当然国民の税金で賄われているわけで、勝手な事をされたら国民に損害が生じます。

そこで、法律を改正して自分の報酬を上げるのはいいけども、次の選挙があるまではその法律の効力は生じないようにしたわけです。

自分たちの報酬を上げるためには、法案を通して、かつ次の選挙に勝たなければならない訳です。

これだとなかなか報酬を上げる法案を出しにくいですよね。だって、その法案に賛成した議員は次の選挙で落選させられる可能性が高いですから。

会社法を知らない人には分かりにくかもしれませんが、会社法で取締役の報酬は株主総会で決めるようにしているのと似ていますよね。

ということで、修正第27条も結果的に国民の権利を保護する方向の内容になっています。

もうお分かりですよね?

今回、自民党が出している憲法改正草案を見ても分かるように、徴兵制は可能になるわ、人権に法律の留保が付いて制限しやすいようになっているわ、国民に憲法尊重擁護義務が課せられるわで、国民の人権を制限する方向の改正ばかりだから国民の支持が得られず改正できないのです。

例えば、明文には無いけどもプライバシー権という人権は13条後段で保障されているという事については争いはないでしょう。

そのプライバシー権を修正第1条なんかで追加するという憲法改正だったら、どんなに改正手続きの要件が厳しくたって通るでしょう。ほぼ全ての日本国民にとって何の不利益も無い訳ですから。

改正手続きである96条を改正して緩やかにするとか訳の分からん事ばかり言っているから96条の改正手続きの要件を充たせないだけです。

国民の人権をより保障するような方向での改正だったり、人権とは関係の薄い統治の部分の改正だったら今の96条の条件を十分に充たして、日本も憲法改正ができていたはずです。

国民の支持を得られないような内容の改正ばかりを議論して、96条の要件を充たせないから96条を改正して改正手続きの要件を緩やかにするなんて本末転倒であり立法府の暴走です。

さらに言えば、日本国憲法の改正手続きは世界各国と比べても特に厳格な要件という事もありません。

国民審査が必要とされている事が少し特殊ですが、他国でもっと厳しい要件が課せられている憲法はあります。

この点については、いろんな人がブログなどに書いていますので、興味がある人は検索してください。すぐに世界の主要国の改正要件が見つかるはずです。

96条の改正については反対派の方が多いようですが、40%超の人が賛成しているという事自体がちょっと恐ろしい事だと思います。

■■ 豆知識 ■■

このメルマガの読者様には憲法96条を全く知らないという人はいないと思いますが、一応日本国憲法96条の条文を掲載しておきます。

第九十六条

1項
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

2項
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

■■ 編集後記 ■■

私たちの日本国憲法のような近代憲法の本質は、国家権力を制限して、国民の権利・自由を守る事です。

これは近代憲法の勉強をした事がある人なら誰でも知っている事です。

国民の権利を制限する方向になっている自民党の憲法改正草案など論外です。

96条に関しても、憲法が最高法規である最大の理由は、その内容が人間の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵のものとして保障する規範を中心として構成されているからです。

とすれば、形式的効力においても最高法規である事は論理必然で導きだされる事であって、硬性憲法である事も論理上当然に導かれます。

この憲法の実質的最高法規性を最も重視されていたのが、今の日本国憲法学の礎を築いた大学者である芦部先生です。

96条の改正手続きを緩和するなんて事は憲法の最高法規性を否定する事にもなりかねません。

ということで、今回は自民党が主張している96条の改正とその理由について疑問が生じたのでアメリカの憲法改正の歴史と比較して意見を述べてみました。

一国民の意見として参考にしていただければと思います。

それでは、次回もお楽しみに。

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