第366号 2013・7・6

■■ はじめに ■■

みなさん。おはようございます。

今回は民法424条の詐害行為取消権の解説です。

以前は債権者取消権と呼ぶこともあったのですが、最近は詐害行為取消権と呼ぶのが一般的なようなので、今後は詐害行為取消権という言葉に統一して使います。

時々、債権者取消権という言葉を使ってしまう事があるかもしれませんが、同じ意味です。

詐害行為取消権は重要な制度ですし、論点も盛りだくさん、要件の考え方がややこしい、効果としてよく分からない相対的無効という考え方が出てくる、など解説すべき事がたくさんあります。

あまり深入りしないようにしながらも、できるだけ深く理解してもらえるように何回かに分けて解説していく事にします。

それでは、さっそくはじめましょう。

▼▼▼ 第424条(詐害行為取消権) ▼▼▼

1項
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

2項
前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

■■ 解説 ■■

詐害行為取消権は、債務者がその債権者を害することを知って法律行為をした場合、債権者がその取消しを裁判所に請求する事ができる権利です。

その趣旨は、債権者の責任財産を保全する事と強制執行の準備をする事です。

詐害行為取消権が使われる典型的な具体例を1つあげます。

甲さんは乙さんに100万円の貸金債権を有していました。その後、弁済期がきたのに乙さんは甲さんに100万円を弁済しませんでした。さらに唯一の資産である500万円の価値のある土地を丙さんに贈与してしまいました。

なぜ乙さんはそのような事をしたのかといえば、100万円の借金を返さなければ、自分の500万円の価値のある土地を甲さんに取られてしまうので、それを防ぐために丙さんにプレゼントした事にして、自分のものではないですよと主張して、甲さんがその土地に手出しできないようにしたかったからです。

この場面で、甲は債権者、乙は債務者、丙は受益者となります。受益者というのは条文の文言で言うと「その行為によって利益を受けた者」です。

もし仮に、さらに丙が丁に土地を売却したり贈与したりしていれば、丁が「転得者」といことになります。

甲からすると500万円の土地は元々乙のものであったのだから、それをあてにして100万円を貸したのでしょう。

それを乙が丙に贈与してしまうとその土地の所有権者が丙に移ってしまい、甲はその土地を差し押さえて強制執行し債権を回収するという事ができなくなってしまいます。

これが原則論ですね。

しかし、それでは甲の利益を害するし、また乙は明らかに甲を害するためにこのような行為をしているわけです。乙を保護する必要性は低いですね。

そこでこのような場合に、424条は債務者の詐害行為を取消す権利を債権者に認めたのです。

これが詐害行為取消権の基本的な知識です。

さて、少し難しい論点がありますので解説します。詐害行為取消権の法的性質という論点です。この論点は少し抽象的で理解しにくいと思いますが、どの説を取るかによって詐害行為取消権の効果や被告が誰になるのかという点が変わってきますので重要論点です。

難しいと思いますので、とりあえずは代表的な3つの説の結論だけ覚えておいて下さい。

詐害行為取消権の法的性質って一体なんなのでしょう?詐害行為を取消して、逸出した財産を取り戻すという事ができるのですが、なぜそのような事ができるのでしょうか?

まず形式論理的に考える形成権説というのがあります。条文が「取消」と言っているのだから、その効力は絶対的無効(121条)となる形成権である。そして財産の取り戻しについては債務者の不当利得返還請求権(703条)を別途代位行使するという考え方です。

確かに分かりやすい考え方ですよね。でも、この説を採ってしまうと勘のいい人なら気づいていると思いますが取引の安全を害してしまいます。また、取消訴訟をしてからさらに不当利得返還請求権を代位行使する必要があり、債権者からすると詐害行為取消権というのはとても手間のかかる制度ということになります。

そこで、請求権説というのが登場します。請求権説は、逸出した財産を取り戻せば本来の目的は果たせるのだから取消という事にこだわらず、取消の効果を121条とは異なり絶対的無効ではなく相対的無効と考えます。

そして詐害行為取消権というのは、逸出した財産を債務者の下に戻す単なる返還請求権であると考えます。だから請求権説と呼ぶ訳です。

相対的無効というのは、121条の無効のように絶対的に無効とするのではなく、当事者同士の間だけで無効とする考え方を言います。これは難しいので後で説明します。

請求権説は詐害行為取消権の趣旨・機能からすると、シンプルな考え方ですよね。

しかし、請求権説にも批判があります。まず424条1項に「取消」とはっきり書いてあるのにそれを無視しています。

また、詐害行為の内容が債務免除の場合に説明する事ができません。

例えば、さきほどの事例で乙さんの唯一の財産が土地ではなく、戊に対する500万円の貸金債権だったとします。その貸金債権を免除(519条)したとします。

もし、乙が免除なんてしなければ甲は乙の戊に対する500万円の貸金債権を債権者代位するなどして100万円を回収できたわけですが、それができなくなってしまいます。

したがって、乙の免除は明らかに詐害行為ですので債権者甲は取消すことができます。

土地を贈与した場合と違うのは、乙から戊に何も財産が移動していない事です。つまり、債務免除という法律行為を取消すだけで目的を達成できるのです。何かを返還請求するという必要がないのです。

とすると、詐害行為取消権を返還請求権と考える請求権説ではこのケースを説明できないのです。

そこで登場するのが判例・通説である折衷説です。折衷説は詐害行為取消権は詐害行為を取消し、かつ、逸出した財産の返還を請求する権利であると考えます。そして、取消の効果は債権者が債務者や転得者から財産の返還を請求するのに必要な限度で、これらの者に対する関係においてのみ無効の効果が生じる相対的無効と考えます。

形成権説と請求権説の両批判をうまくかわしている事になります。これが判例・通説ですのでこの結論を覚えておいて下さい。

もう1つ責任説というのがあります。責任説はおもしろい考え方をするのですが、少し毛色が違うので今は無視しておきましょう。

今回はここまでにしておきましょう。

詐害行為取消権というのがどういう制度で、それが使われる典型的な場面、そして詐害行為取消権の法的性質という重要論点を解説しました。

■■ 豆知識 ■■

債権者取消権の要件を挙げておきます。重要条文ですので覚えて下さい。条文の文言からそのまま読み取れるわけではないので覚えるしかないです。

【債権者側の要件】
被保全債権が存在すること
詐害行為前に債権を取得していること

【債務者側の要件】
1、客観面(詐害行為)
    債務者のした法律行為であって、財産権を目的とするもの
    債務者の無資力
2、主観面
    詐害意思

【受益者・転得者の要件】
債権者を害することを知っていること

■■ 編集後記 ■■

詐害行為取消権は、択一式の試験ではそれほど難しいものは出題されません。ですから択一しかない試験を受験される人は、それほど深く理解する必要はありません。

論文試験がある場合には、詐害行為取消権が行使された後の処理なども必要ですので、深く理解しておく必要があります。

いずれにせよ詐害行為取消権が理解できれば、民法の考え方の理解が深まりますので、誰にとっても重要な条文です。

最後に1つ質問です。

さきほど免除というのが出てきましたが、免除の条文は何条か分かりますか?

免除の条文を覚えている必要は全く無いのですが、民法の体系を理解していれば、だいたいの目星をつける事ができます。

400番台の後半から500番台の前半くらいだなぁと思えた人は民法の体系を理解できている人です。

なぜそのあたりにあるというのが分かるかというと、免除というのは債権が消滅する行為ですよね。

ということは、第3編、第1章、第5節の「債務の消滅」の部分にあるはずです。債権の消滅原因である474条の第三者弁済、相殺の505条くらいは番号を覚えているはずですので、だいたいこのあたりだろうという推測がつくわけです。

いつも申し上げていますが、民法の目次の大枠は覚えて下さいね。民法の理解が一気に深まりますし条文探しが楽になります。

それでは、次回もお楽しみに。

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私の愛読書の1冊である渡部昇一さんの「知的生活の方法」の中で、「情理至当」という言葉が出てきます。

幸田露伴の「連環記」の中で使われている言葉なのですが、こういう言葉を創れるって素晴らしいですよね。

正確には思い出せないのですが、坊さんが仏の道から外れるような世俗的な事をしていて、それを咎められた時に、その坊さんが「家族を養っていくためには仕方の無い事もあるのだからやむを得ないのです。」と言ったというような話です。

確かにこういう話って、人の「情」から出てくる「理」としては一見「至当」のように聞こえますよね。でも、やっぱりそういう事をしちゃダメだって話です。

夢や目標があるのに、仕事が辞められないとか家族のために収入を減らすわけにはいかないとか言って先延ばしにしている人って少なくないですよね。

これがまさに情理至当です。

広辞苑で調べても出てこない熟語ですが、これだけの意味のある事を「情理至当」というたった4語で表現できる文章力。さすがです。

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