第357号 2012・6・19

■■ はじめに ■■

みなさん、おはようございます。今日は、民法420条の解説です。

難しい条文ではありません。

民法の大原則である私的自治の原則とか契約自由の原則という概念を再確認するのによい条文です。

それでは、さっそくはじめましょう。

▼▼▼ 第420条(賠償額の予定) ▼▼▼

1項
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

2項
賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。

3項
違約金は、賠償額の予定と推定する。

■■ 解説 ■■

債務不履行が発生した場合、損害賠償請求をすることができるのは415条で解説しました。

債権者が、債務不履行に基づく損害賠償請求をするためには、損害の発生およびその金額を立証しなければなりません。

例えば、甲さんが乙さんにパーティーのためにビールを100本注文したとします。

しかし、乙さんは約束の日時にビールを持ってきませんでした。

この場合、甲さんは、乙さんに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができるのですが、その際には、ビールがないためにビール好きのお客さんとの大切な商談の機会を逃したなどの具体的な損害の発生を証明しなければならないのです。

また、具体的にいくらの損害が発生したという金額も明らかにして立証しなければなりません。

この証明は、債権者にとっては大変難しく煩わしいものです。

そこで、さきほどのビールの売買契約の際に、「乙さんがきちんとビールを持ってこなかった時は、20万円の違約金を支払う」などの約束をしておくことができます。

これが賠償額の予定(420条1項前段)です。

民法は私的自治の原則というのがありますから、賠償額を当事者で事前に定めておくなんてことは当然認められますよね。

賠償額の予定がある場合、債権者は、債務不履行があったという事実さえ証明すれば、予定賠償額を請求することができます。

損害の発生及びその金額を立証する必要がなくなります。債権者にとっては、かなり有利な効果が生じます。

さきほどの事例でいえば甲さんにとって有利になります。

賠償額の予定がなされた場合、裁判所が職権で賠償額の増減をすることができません(420条第1項後段)。

例えば、さきほどの事例で、裁判所が「本件は、甲さんに多大な損害が発生しているので、賠償額は50万円にする」なんて事はできないということです。

これも私的自治の原則、契約自由の原則の現れですよね。

民法が私法であることの現れということもできます。

公法である憲法、刑法、刑事訴訟法などでは、当事者の意思が私法に比べると認められにくくなります。

さて、2項です。

賠償額の予定がなされた場合でも、債権者は、引き続き履行の請求をすることもできますし、解除権を行使して反対債務から逃れることもできます。

最後に3項です。

違約金というのは、言い方は別にどうでもいいのですが、要するに債務不履行があった場合に一定の金額を支払うことを約束した金銭のことです。

この違約金というのは、当事者がどういう趣旨で約束したのか明確であればいいのですが、不明確な場合があります。

例えば、さきほどの事例のように「乙さんがきちんとビールを持ってこなかった時は、20万円の違約金を支払う」という違約金の約束があった場合を考えてみましょう。

債務不履行があった場合、20万円を支払えば全ての債務不履行責任を免れるという趣旨かもしれません。

債務不履行によって発生する通常の損害賠償とは、全く別のものとしてペナルティ的に別途20万円支払うという趣旨かもしれません。

このように違約金の趣旨が不明確な場合があるので、紛争を避けるために、違約金は賠償額の予定と推定(420条3項)することにしました。

これが多くの当事者の合理的意思に合致するからです。

もちろん、推定ですので、その推定を覆す証明をした場合には3項は適用されません。

■■ 豆知識 ■■

細かい話ですので、読み流してもらってもかまいません。

単に、賠償額の予定と言っても、3種類の意味があると考えられています。

特に覚える必要はありませんが、2項と少し関係する場合もありますので、目を通しておいて下さい。

1、履行の遅延に対する賠償額の予定

2、本来の給付に変わる賠償額の予定

3、契約関係を清算するための賠償額の予定

■■ 編集後記 ■■

長々と解説しましたが、それほど難しい話はなかったと思います。

民法の大原則である私的自治の原則から当然導かれる話だと思います。

それでは、次回もお楽しみに。

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